前回はわが社で実践している損益分岐経営について書きました。
日本人であれ、ベトナム人であれ、やはり興味があるのは自分の報酬であり、社員の報酬を生み出すものは会社の利益です。
しかし無闇に利益を上げれば良いのではありません。安定した収入と生活を得るために、最低限これだけの売上を上げなければならないという具体的な目標を経営者が示すことと、収益とコストに関する正しい知識と情報を共有することが大事です。会社が儲かっているのか、儲かっていないのか、明確に数字として公開をすることが必要だと考えております。
今回はどのようにして数値目標を算出しているのか、わが社の事例をご紹介します。
うちのような小さな会社では、1本の断わりの電話、1本の断わりのメールによって大きくその月の売上と損益が変わってしまいます。顧客の担当者がたまたま忙しかったり、日本に出張中で回答が遅かったりするだけで、予定していた売上が大きく変わってしまうのです。まさにセスナ機を飛ばしているようなもので、常に目前の障害物や高度を注意しておかなければ、大災害につながってしまいます。
弊社ではプロジェクトマネジメントシステムを自社開発をして活用しています。
引合、見積、受注、タスク管理、請求、入金、資金繰、損益管理をすべて一気通貫で管理できるシステムを、約2年半かけて築きあげてきました。
私がこのようなシステムを作ろうと思ったのは、ある日、とても信頼しているベトナム人社員に裏切られたことがきっかけでした。
彼女は日本語も上手で気が利いていて、日本人受けのするベトナム人だったのですが、ある日、会社の家賃と給料を引き落としに銀行にいったまま帰ってきませんでした。なにか事故にでも会ったのかと、その夜、自宅にまで行ったのですが、両親も知らぬ存ぜぬです。半日たってようやく持ち逃げをされたのだということに気がつきました。金額は3500ドルほどだったのですが、本人にとってみれば10ヶ月分ほどの給料に相当します。
頭にきて、最寄りの警察にも相談しましたが、あと数千ドル払えば事件にしてくれるということ。これでは泥棒に追い銭です。結局、泣き寝入りせざるを得ませんでした。
しかしこの経験が、ベトナムにおける事業に対する考え方を大きく変えてくれました。
本人が不正を行う余地がないように計数管理と業務管理は徹底して行わなければならないこと。業務実績をリアルタイムに把握して、常に現状と将来を把握しておくことなどです。
弊社のプロジェクトマネジメントシステムでは、日々の業務状況や顧客からの情報に基づいて、現時点の損益、将来のキャッシュフロー、コスト実績と損益分岐売上がリアルタイムに把握できるようになっています。毎朝の朝礼では、今月はあと幾ら稼がないと黒字にならないのか、それを達成するためには個々のプロジェクトとタスクをいつまでに完了させなければならないのか、新規受注をいくらとらなければならないのか、社員各人のパフォーマンスと目標値がリアルタイムに報告されます。
本システムも第2期開発が完了し、ほぼ、業務全般をカバーできるようになりました。
もちろん、どんぶり勘定でも大丈夫なだけの売上や気の利いた日本人管理者が数名いれば、このようなシステムを導入しなくても十分に利益をあげられるのかもしれません。しかし、わが社のように、”気の利かない素人”が集まった会社では、システム化とルール化しか経営実績を挙げられる方法はありません。そのためには経営システムの構築が重要な要素となってくるのです。
また別の観点から言えば、システム化はベトナム人の離職率の高さに対する対抗策にもなります。日本的な経営では「人は資産なり」と言われますが、数ヶ月~数年で転職を繰り返すベトナム人の場合には必ずしもそれは当てはまりません。社員のヤル気や能力に頼っていると経営はいずれ立ちゆかなくなります。
システム化はノウハウとして蓄積されます。
以前、お客様から正式の発注もいただいていないのに外注先に発注をかけてしまい、多額の外注費を自己負担しなければならないという事態が起こりました。よく確認しないまま外注先に発注をしてしまった本人を呼んで叱りつけたいところでしたが、日本語を全く理解しないベトナム人にお客様(日本人)に確認をしろといっても無理な話です。
そこで、システム上のワークフローを変更して、お客様からの発注依頼がない場合は絶対に外注先への発注書が発行できないようにシステムを改善しました。以降、このような問題は全く起こっていません。
システム化により得られる業務の効率化や合理化はもちろんですが、海外で事業を展開する場合、誰が担当しても業務を運営することができるようにするシステム化が成功の鍵であると思います。

プロジェクトマスター画面
現在稼働中の業務が一覧できます。納期別、ステータス別表示、売上、外注費、利益率、計上年月、納期、当日の受注残高などを表示しています。

キャッシュフローチャート
年間の口座別残高実績および予測をグラフ表示。残高がゼロになった時点で倒産です。

年間の売上、外注費、一般管理費、経常利益をリアルタイムにグラフ化。1本の断りの電話、メールで数字が大きく変わってしまうため気が抜けません。
